私達人間は、毎日食べることによって新たな栄養を体内に取り込み、生命を維持しています。たとえどんなに卓越した能力を持った人物でも、何も食べずに生きていける人は存在しません。
私たちが食事の際に無自覚におこなっている、食べ物を口に含み、細かく噛み砕くことを「咀嚼(そしゃく)」といいます。日頃意識せずにおこなっているこの行為には、効率よく栄養を吸収する手助けの他に、さまざまな効果があると言われています。
代表的なものとして、咀嚼、つまりよく噛むことで唾液の分泌が増え、お口の中をきれいに保つとともに、咀嚼筋が鍛えられるということから「シワの防止」「虫歯・歯周病予防」「記憶力アップ」「肥満防止」などが効果に挙げられます。
間接的なところでは、歯周病が関与されているとされる糖尿病や、心臓病などの生活習慣病の予防にも影響があると言われています。
しかし、「咀嚼」はお口が健康であって初めて機能するものです。
全身の健康や食べる楽しみのためにも、「予防歯科」は歯科分野として大切な一つだと言えます。
●虫歯を治療しても、溶けた歯は取り戻せません
歯科の治療は、風邪を薬で治すというよりも、病気で失った体の部位を義足や義手で補う仕事に似ています。
虫歯や歯周病は、治療しても完全に元の状態に戻るわけではありません。歯科治療では、見た目や機能をある程度回復させることはできますが、決して虫歯や歯周病になる前の、生まれ持った健康な歯や歯肉には戻すことはできないのです。
さらに、歯周病や虫歯が初期段階では自覚症状に乏しいために、痛みや腫れに気付いて歯科医院にかけこんだ時には、すでに深く進行してしまっていることがあります。
定期検診を日頃からおこなっていれば、虫歯を初期段階のうちに発見し、歯を削らずに済むかもしれません。また、歯周病も初期の段階であれば必要最小限の治療で済ますことができます。
削らない治療、歯を大切にする「MI(Minimal Intervention/最小の侵襲)治療」は、そのような早期発見・早期治療ができる環境のもとで本領を発揮します。
お口の中の健康を守るため、当院では「定期検診」をおこなっています。私たちと一緒に、お口の健康を守っていきましょう!
虫歯や歯周病の原因は、細菌が集まってできたバイオフィルムです。
バイオフィルムは菌たちを守るバリアの役割を担っているため、薬や歯みがきで完全に落とすことは困難です。虫歯や歯周病になるのを防ぐには、このバイオフィルムの状態を定期的にチェックし、適切に除去しなければなりません。
歯科医院の定期的なメインテナンスでは、専門家のPMTC(歯のクリーニング)によってお口の中のバイオフィルムや歯石を完全に除去することができます。これが歯科医院でおこなうプロフェッショナルケアです。
また、患者さまそれぞれに適したホームケア(ご自宅での歯みがきや食生活など)についても、必要に応じてご提案させていただきます。
虫歯や歯周病の予防においては、ご自身でおこなうセルフケアと、歯科医院で定期的におこなうプロフェッショナルケアの両立が大切になってきます。
予防歯科は、患者さまと歯科医院の共同作業とも言えるでしょう。
●定期検診のおすすめ
虫歯と歯周病を防ぐためには、毎日のお口のケアと、早期発見・早期治療を実現する歯科医院での定期的な検診が必要です。
当院では患者さまのお口の状態やご希望に応じて、治療終了後も虫歯の再発や歯周病の進行を止めるための定期管理を四ヶ月、六ヶ月ごとにおこなっています。
●予防歯科の処置内容
◎歯のクリーニング(PMTC)
日頃の歯みがきだけでは落とせない歯垢や着色を、歯のクリーニング専用の機器を用いて取り除きます。
お子さまの場合は大人のようなヤニ・茶渋などの汚れはありませんが、四カ月~半年に一度、専門家の手でクリーニングすることによって、虫歯予防につながります。特に歯肉が炎症しやすいお子さまには、PMTCでのクリーニングをおすすめしています。
大人も子どもも、終わった後のツルツルとした歯の爽快感が大変気持ち良いクリーニングです。
◎フッ素塗布
フッ素には歯のエナメル質を丈夫にして歯を強くする効果があり、歯科では虫歯の予防処置に用いられています。
当院では、一般に売られていない高濃度(9000~9500ppm)の歯科医院専用フッ素を歯に塗布し、虫歯になりにくい強い歯質作りを促します。
1回のフッ素塗布だけでは高い効果は期待できないため、定期健診の際にフッ素塗布をおこないます。
また、フッ素には歯の再生(再石灰化)を促す作用と抗菌作用があります。ごく初期の虫歯ならフッ素塗布と食事指導・ブラッシング指導などを定期的に行うことで自然に治ることもあります。
フッ素は、私たちが毎日食べている海産物や農作物・お茶などにも微量に含まれていている、体に必要な栄養素の一つです。過剰摂取しない限りは安心ですので、用法を守ってご家庭でのフッ素洗口などをしていただくことは、安全で手軽な虫歯予防策と言えるでしょう。
歯の表面のエナメル質を酸に溶けにくい性質にします。
歯の表面は唾液に含まれるカルシウムやリンが再付着(再石灰化)することで、日々再生しています。フッ素はこの働きを助ける性質を持っています。
フッ素は虫歯の原因菌の働きを低下させます。細菌の働きが弱まると、酸の放出が減少し、歯も溶けにくくなります。
◎歯みがき指導
年齢や歯並び、お口の中の状況に応じて、効率的で効果のある歯みがきの方法というのもさまざまです。当院では、患者さまの年齢、体質、歯並びなどを考慮した上で、それぞれに応じた効果的な歯みがき指導をおこなっています。
●定期検診の流れ
【1】口腔内検査
歯や歯肉の状態、お口の中の様子を診察します。虫歯や歯周病のチェックも同時におこないます。
●精密検査
レントゲン撮影で、目に見えない歯の中や、歯槽骨の様子をチェックします。
●治療
必要に応じて、虫歯や歯周病などの治療をおこないます。
【3】ブラッシングのチェック・指導
プラークが赤く染まる歯垢染色液を用いて、歯みがき後どれだけお口の中に磨き残しがあるかをチェックします。その上で、患者さまそれぞれのお口の中の様子に合わせて、磨き残しのない効果的なブラッシング方法を指導します。
【4】PMTC(歯のクリーニング)・スケーリング
歯に付着したバイオフィルムや着色汚れ、歯石を除去し、キレイに磨き上げます。
【5】フッ素塗布
汚れを除去してきれいになった歯の表面に、歯を強くするフッ素を塗布します。
最近の研究で、重い歯周病にかかっている母親は、そうでない母親と比較して早産や低体重児出産が起こりやすいということが分かってきました。
妊娠した女性の体内では、女性ホルモンのエストロゲンが増加し、骨密度が低下することで歯周病が重症化しやすくなっています。さらに、歯周病になると、原因菌に対する免疫反応の中で陣痛を起こす物質を発しやすくなるため、歯周病が早産や低体重児出産の危険性を高めることになるのです。
妊娠中はただでさえ、つわりなどが原因で十分な口腔ケアがしづらく、お口のトラブルが起きやすい時期です。ご自身ではなかなかケアできないお口の中をこの時期に検診し、母子ともに健康ですごせるように、当院ではマイナス一歳からの歯科検診をおすすめしています。
●検診の流れ
【1】口腔内検査
歯や歯肉の状態、お口の中の様子を診察します。虫歯や歯周病のチェックも同時におこないます。
診療中の体勢が辛い場合はお気軽にお申し出ください。楽な姿勢、角度に調整いたします。
【2】ブラッシングのチェック・指導
プラークが赤く染まる歯垢染色液を用いて、歯みがき後どれだけお口の中に磨き残しがあるかをチェックします。その上で、患者さまそれぞれのお口の中の様子に合わせて、磨き残しのない効果的なブラッシング方法を指導します。
【3】PMTC(歯のクリーニング)
歯に付着したバイオフィルムや着色汚れを除去し、キレイに磨き上げます。
【4】フッ素塗布
希望があれば汚れを除去してきれいになった歯の表面に、歯を強くするフッ素を塗布します。
【5】妊娠中の口腔衛生指導
必要に応じて、虫歯や歯周病予防についての指導をおこないます。
●妊娠中のレントゲン撮影について
歯科レントゲン一回分の放射線被ばく量は、通常おなかの中の赤ちゃんに対して許容できる被ばく量下限の200分の1以下であり、鉛入りの防護エプロンを装着することで腹部への被ばく量はさらに少なくなります。
ですが、妊娠中は敏感になる部分でもありますので、当院では基本的に妊娠中のレントゲン撮影は控え、治療上どうしても必要な場合のみ、患者さまとよく話し合った上でご了承を得てから撮影をおこなっています。
●妊娠中の歯科治療について
妊娠中の歯科治療は、安定期の3~8カ月目がベストだと言われています。可能な限り、この安定した期間に治療を終わらせるように治療の計画を立てます。赤ちゃんの基本的な部分が形成される妊娠初期と、出産を控えた後期においては、無理のない応急処置にとどめます。
妊娠中は使える薬が限られますが、歯科でよく使われている薬の中では鎮痛剤や抗生剤など、これまでの記録から妊婦に対してほぼ安全だとされているお薬があります。妊娠時期や種類、アレルギー等を考慮して、お薬が必要な場合は患者さまとよく話し合った上で処方します。
また、歯科治療で使用する局所麻酔は長年の統計から胎児に影響はないという結果が出ており、通常は問題はないとされています。